|
天使たちの困惑〜クリスマスを前に
中尾照代
|
天で、ふたりの天使がひそひそと話していた。
「御子が近々、人間の世界に行かれるって、聞いたんだけど、本当だろうか…。」
「ええ、確かなようですよ。それも、あの輝く王冠も、聖いお衣も、みんな脱ぎ捨
てて、裸の赤ん坊になって、乙女の胎を通って行かれるそうですよ。その事は、あ
のガブリエルさまが、もう処女マリヤに告げておられるそうですよ。」
「えっ、そんな! なんか大変なことが起こるんですね。」
「実は、それは、ずっと以前から、父なる神さまが人間を救うために計画された事
だって聞きました。」
「人間って、あの神さまに背いて醜い事や悪い事をいっぱいしている、あの罪深い
人間たちの事?… どうして神さまは、人間のためにそこまでしなくてはならいのだ
ろう?」
「神さまは何よりも、その人間を深く愛しておられるから、人間を見捨てておくこ
とができなかったのではないかしら?」
「そうかも知れませんね。神さまは、人間を愛しておられて、人間のためには、な
りふりかまわず、何でもなさるって感じですね。」
「御子が人間として生まれる夜に、“良きおとずれ”っていう賛美を羊飼いに聞かせ
るから、よく練習しておくようにって、私たちの聖歌隊長が言ってましたわ。」
「御子が人間として生まれる事は、人間にとって“良きおとずれ”、つまり“福音”な
んですね。御子は人間の世界で“イエス・キリスト”って呼ばれるそうだけど、貧し
い大工のヨセフの子どもとなられるのなら、きっと、お辛い日々を過ごされるのだ
ろうなぁ…。」
「もちろん、そうだと思うけど、実はもっと大変なことが御子を待ち受けているの
だそうですよ。御子は、大人になって、三十歳位になられてから、神さまの事を、
人間たちにお話になるそうですけど、その後、十字架の上で罪の罰を受けて、処刑
されるんだって聞きましたよ。」
「えっ、まさか?… 神の御子が罪の罰を受けて、お命を落とされるんですか?」
「そう、人間の身代わりにね…。それが神さまのご計画なんですって。それ以外、
人間を罪から救う道はないからですって。処女マリヤから生まれて、その血の中に
罪のないお方が、人間の身体をもって罪の罰を受ける以外には、聖い神さまが人間
をゆるす方法はないからですって。」
「それじゃ、御子は、死なれるために、地上に降りられるのでしょうか。人間の罪の
身代わりになるために。」
「そうなんですね。もう時が迫っているみたいで、大きな星が旅支度をしていまし
たよ。御子を待っている人々に、御子の誕生を知らせるためにでしょうか、ずいぶ
ん急いでいるようでした。」
「それでは、私たちも、父なる神さまのご指示をよく聞いてから、地上を歩まれる
御子を、できる限りお助けしましょう。」
「御子が、救いのご計画を成し遂げて、天にお帰りになられるまで、心してお守り
致しましょう。」
星は、固い決意を胸に秘めて、その瞳に力を加えながら、天使たちの傍を通り抜け
て行った。